トルコのバスの旅 総括



もうオトガルに行く事も長距離バスに乗る事もないんだなぁと思うとちょっと寂しい。

結局、私、長距離バスには8回乗ったわけね。

乗るたびにいろんな事があって、いろんな物を見て、楽しかった。


まず、オトガルに着くとわーっと客引きのおじさんが寄ってくる。行き先を告げるとバス会社のカウンターに連れていってくれたり、「あっち」って教えてくれたり。

で、チケット購入。

カウンターのおじさんはものすごい早業で日付、時間、乗り場、行き先、座席番号をチケットに書き込む。座席番号なんてなんのリストも見てないし、他の予約カウンターもあるわけだしバッティングしたらどうするんだろ、と思うけど不思議とそういう場面に遭遇したことはない。


デニズリで客引きのおじさんに「アンタルヤ」と告げてカウンターに連れて行ってもらってチケットに書き込んでもらっていると、客引きのおじさんとカウンターのおじさんがなにやら言い合いを始めた。

で、そのうち客引きのおじさんが私に「何か言ってやれ」というようなジェスチャーをする。私が「な、何を?」と言うとカウンターのおじさんが「ありゃっ?」というような顔をして座席番号を訂正した。

座席は男は男同士、女は女同士で隣になるように決まっていて、最初男同士用の座席番号を記入してしまったらしい。

男っぽく見えるようにわざとしてるんだけども、やっぱりなんだかなぁ……。


で、チケットを買うとさっきまであんなに寄ってきた客引きおじさん達は見向きもしてくれなくなる。

素晴らしく伝達速度が速いのだろう。ちなみに前日チケットを買っておいて翌日行っても同じ。

アンタルヤでは前日のうちにコンヤ行きのチケットを買っておいたんだけど、当日、オトガルに着くなり知らないおじさんに「コンヤ行きはあのバス」と言われた。

本当に、どんな情報網がオトガルにはあるのか。不思議。


バスに乗り込む前に荷物をトランクに預ける。トルコの人々は皆「夜逃げでもするの?」というほど大きい荷物を持ってるのでトランクはいつもぎゅうぎゅう詰め。

そして、座席に座る。女の子はだいたい前の方に座ることになっているらしい。私のお気に入りは4番席。

前と右側、景色も道路標識(○○まであと○kmというやつ)もよく見える。


バスはオトガルを出て市内をゆっくり走る。道路で待っている人を乗せるため。

たまに待ってる人と車掌が手話のようなもので何事か伝え合っているときもある。

きっと「○○に行きたいから乗せて」「いや、そこは経由しないからダメ」みたいな事だと思うんだけど、全く理解不能


市外へ出るとバスは急にスピードを上げる。平均時速90km/h。一番前に座るとそういうのも見えてしまう。

その頃になると車掌さんが、乗客一人一人に行き先を聞いたり、チケットを確認したり。

その後コロンヤ。最初のうちは慣れなくて受け止め損ねてジャンパーとかジーンズ、リュックをべとべとにしたっけ。

香水というより化粧水に近いのかな。おじさんとかは顔にもつけてるし、つけたあとはなんだか手がしっとりする。

1回、スプレータイプの芳香剤をしゅーってされたけどあれは嫌いだなぁ。

バスによっては、休憩の後とか最終目的地に着く前にもコロンヤがある。



バスは山を越え谷を越えひた走る。ちょっとでも遅いトラックが前にいたりするとどんどん追い越しちゃう。

曲がりくねって視界の悪い山道や雪が積もってシャーベット上の道でもお構いなし。

私は2回道路の脇に乗り上げてるバスを見たし、テレビでも転がったバスから人が救出されるニュースを見た。本当はとってもおそろしい乗り物なのかもしれない。

トルコの人は好奇心旺盛で、そういう事故に出くわすと「おぉ!すごいぞすごいぞっ!」って感じで身を乗り出して窓にへばりつく。反対側に座ってる人たちも「なんだ、なんだ?」と立ち上がって覗き込む。

運転手さんもこの時ばかりは速度を落として見物している。(ちゃんと前を向いて運転して欲しい…)



コンヤからカッパドキアに向かう道はとても雪が深かったけど、除雪車がきれいに雪を払いのけてた。

そこに道路があったかいのかなんなのか、鳩や雀がびっしりと降り立つ。車が通るたびに飛び去るのだけど、車が通り過ぎるとまた道路に下りてくる。ちょっとでもタイミングの悪い鳥はバスの車体やフロントガラスにぶち当たっていた。

運転手さんは平気な顔でワイパーを動かしてフロントガラスについた羽根を払い落とす。なんだかヒッチコックの「鳥」の世界。

雀なら「ガンッ!」程度だけど鳩があたったときはガラスにヒビが入っていた。



あと、バスによっては飲み物のサービスがある。

途中のオトガルでチャイハネのお兄ちゃんがチャイを持ってきてくれたこともあるし、ちゃんと1回分の分量がセットになったインスタントコーヒーの時もある。

カップに先にお湯をそそがれてしまうとコーヒーの粉を入れたりクリープ入れたりしてるうちに山道の急カーブでばっしゃーばっしゃーとダイナミックにこぼれてコップ半分くらいになっちゃうし、とても危険。

粉を全部入れた後でお湯を注ぎに来てくれるのが正解だと思う。

コーラの時もあるし、ビニール袋入りのミネラルウォーターの時もある。


アンタルヤからコンヤに向かうバスは、車掌さんが急にバスを止め道端で物売りをしている少年から何やら買い物。「仕事中に何やってんのよー」と思ってると、買った物をお皿に乗せて配り出した。

おやつの干しいちじくだった。

皆1個ずつなのに、車掌さんは「トルキッシュ」と言って私には3個もくれた。

味は干し柿に似てるんだけど、甘さは控えめでとっても素朴な味がした。



途中、休憩は給油も兼ねてガソリンスタンドでする。

MobilとかShellもあるけどダントツに多いのはPetrol Ofisi。日本のガソリンスタンドも最近はコンビニとかパン屋さん併設してるとこあるけど、トルコのガソリンスタンドはもっとすごい。

トイレは番台さん(?)付きだし、ビュッフェにロカンタは当たり前。綺麗なモーテルがあるとこもある。ドライブインを兼ねてるのね。

私は結局、一回も降りず車窓から見てただけだけど。

なぜなら、運転手さんの休憩が終わった時(気まぐれ)が出発の時間だから。運転手さんはバスに戻るやいなやドアを閉め、即出発。一応、直前に場内放送みたいなのを流してるっぽいけどトルコ語だからわかんないし。

たまに一人ぐらいおいてけぼりくらってないかしら、と心配になってしまう。


車内はいつも、「TELEFERIK」のラジオが流れている。このラジオ局は主に撮るこの歌謡曲を流しているみたい。それがまた異国情緒あふれてていい。

綺麗な景色を見ながらトルコの音楽を子守唄にして、よくうたた寝しました。

「はっ」と起きると「しまった」と思う。私が目をつぶってる間にバスはすごい景色のところを通ったんじゃなかろうか、と。損をした気分になってしまう。

でも、とっても気持ちよくて、やっぱり寝てしまう……。


そうこうしている内に、バスは目的地に近づく。道路標識のあと○kmの○の数字が少なくなっていくのがまるでカウントダウンのよう。

バスを降りればまた全然知らない街でホテル探しをしなくちゃいけない。かと言ってバスが遅れたり陽が沈んだりすると早く着けー、なんていう思いも混じる。複雑。



そして、新しい街のオトガルへ。荷物をトランクから出し、背負う。そして、全く方向感覚がつかめないまま歩き出す。

「You want Hotel?」とホテルの客引きのおじさんがいることもあるし

「Taxi?」とタクシーの運転手さんが声をかけてくることもある。

しかしやっぱりここにはすごい情報網があるのだろうと改めて思う。

同じようにオトガルをうろうろしているのに、バスに乗る前はバスの客引きのおじさんしか寄ってこないし、バスを下りた後はホテルの客引きとタクシーのおじさんしか話しかけてこないのである。

なんでかなー。